ここから本文です
プロジェクト
エネルギー自立分散

プロジェクト概要

 我が国のエネルギーシステムに関して、化石燃料・原子力を中核とする「集中発電・広域送電型」から、太陽光・風力等の自然エネルギーに基づく自立発電その場消費の「自立分散型」へのパラダイムシフト実現に向けた調査を行い、基本的なシステム構成を提示し、必須の要素技術を吟味して、オープンかつインテグラルなシステムアップの方法論を探ります。さらに、技術面での異分野連携を強く推進するために、経済面・社会面で産学官民それぞれが分担・連携すべき役割を明らかにします。

この図の左半分に本調査研究の課題設定(作業仮説設定)に至る考え方示しています。その論脈を次の節でご説明します。

アブダクション(Abduction)

思考法の概念としては、演繹法(deduction)と帰納法(induction)がよく知られていますが、科学的探求のための仮説構築には、意識するしないにかかわらず、多くの場合、アブダクション法(Abduction)が使われます。それぞれの考え方の流れは次のように示すことができます。

・Deduction:Rule-Case-Result         Rule = 大前提(法則)
・Induction:Case-Result-Rule          Case = 小前提(仮説)
・Abduction:Result-Rule-Case         Result = 結論(事実)

アブダクションは、関連する証拠を最もよく説明する「仮説」を選択する推論法であって、リザルト(観察された諸事実)の集合から出発し、ルール(大前提・法則)と照合しつつ、事実についての最良のケース(小前提・「仮説」)へと推論していきます。失敗の原因を探ったり(あるいは犯罪捜査のような探偵的思索においても)、計画を立案したり、暗黙的な仮説を形成したりするときにしばしば使われます。ウェゲナーの大陸移動説の発想プロセス、日本で発明された発想法KJ法はアブダクション法の好例と言われています。
ここでは、図左の上から下の方向に、現況認識(リザルト)→パラダイム(ルール)→ケース(仮説)という流れで、本調査研究の課題(「自然エネルギーを活用した自立分散型システムを形成するにはいかなる合意形成が必要か?」)を設定しました。当たり前に思われることを大袈裟に論じている感は否めませんが、論点をぶれさせない決意表明と読み取ってください。これは、つまり、「自然エネルギーの利用においてメガソーラーや大型風力などの集中的大規模発電をメインにはしない」との宣言と理解しても頂いて構いません。
さて、このように、本調査研究の企画時には課題設定のためにアブダクション法を用いました。そして、後にもう一度、この手法を用います。4ヶ月間(全調査研究期間の1/3)の「前期活動内容」を受けた次の章立て「Abduction as a Strategy」においてです。
そこでは、本調査研究の企画段階で提示した「オープン・インテグラルという産業アーキテクチャスタイルを「合意形成」の手法として採用する」にあたっての大前提(ルール)になりうる「新社会プラットフォーム」が、実は、今、多方面で着々と進行していて、それらをこそ基盤として本課題の解決の道が明らかになっていくはずだ・・・・と考え至ったプロセスを「Abduction as a Strategy」の章で示します。(かなり先走ってしまいました。今後の論考の鍵を握る「オープン・インテグラル」について、以下に説明しておきます。)

オープン・インテグラル

「ものづくり経営」の世界では、部品設計に関するアーキテクチャ・スタイルが詳細に分析されています。次の図を見てください。

  横軸は、製品を構成する個々の部品が共通のインタフェースを持っていて単純な組み合わせ(モジュラー)で製品化できるか、あるいは、特定の製品設計に基づいて部品間の精緻な擦り合わせ(インテグラル)が要求されるかを問うています。
一方、縦軸は、企業の壁を越えて業界内が完全に標準化され部品調達の完全自由化(オープン)が確立しているか、製品設計が特定の企業に限定(クローズ)されていかで仕分けされます。図中の例示にあるように、

・「オープン・モジュラー」の典型が、パーソナルコンピュータ
・「クローズド・モジュラー」が、レゴやトラックやメインフレーム
・「クローズド・インテグラル」が乗用自動車やゲームソフト

などによって、この分類法をリアルに理解することができますね。

そして、この分類の創始者である藤本隆宏教授によれば、「オープン・インテグラル」は、「定義により存在しない」とされています。つまり、部品の設計面で相互依存が無くインタフェースが完全標準化されていれば、組み合わせるだけなので、擦り合わせるまでもないからです。

ところが、ユーザ指向のシステム構築、さらにいくつか複数のシステムを統合して成る全体システムを構築しようとした時にぶつかる壁があります。ひとつは「システム全体は一社では囲い込めない」、もうひとつは「単純な組み合わせ(モジュラー)では所望のシステム機能を発揮できない」ということです。前者こそ「オープン性」、後者こそ「インテグラリティ」の必要性を示すものです。

・オープン性:
「システム全体を一社では囲い込めない」とは、つまり、一企業が装置・サブシステムを独占的に囲い込むことは現実的に不可能に近い。逆に、常にユーザに自由な選択肢を与える立場から技術や商品の調達をユーザ(あるいはユーザの立場の代行者)に主体的に取り組んでもらえれば、企業は差別化(独自のラインナップ戦略)による激しい消耗を回避できる。

・インテグラリティ:
「単純な組み合わせでは所望のシステム機能を発揮できない」とは、つまり、出来上がる「システムの構造」と「個々のシステム要素(製品)の機能」の関係は複雑で、これらを精緻にチューニングしなければならない。そのとき、インテグレーションの境界条件として機能するのが、ユーザの経済状態・嗜好・ライフプランとの適合性であって、そうした「ユーザ指向性」の立場から「技術集積のシステム・デザイン」が必要となる。

つまり、システム構築における「オープン」と「インテグラル」は、一企業が一商品を製造・提供する論理の中ではなく、ユーザ・ニーズの多様性に対応する中で求められているのです。

乗用車は「金のなる木」として企業が技術をクローズに囲い込んで(クローズド・インテグラル)商品化を進めているのに対して、スマートハウス(ex.HEMS)等の場合は、そのシステム・インテグレーションにおいて「金のなる木の絵」を描けないというのは、まさに潜在/顕在ユーザ・ニーズの多様性を即インテグレーションのスタイルを絞り込めないからだし、クローズして踏ん張ろうとするとどうしてもコストUPしてしまう(これは企業にもユーザにも辛い)。

それでは、どのようにして多様なユーザ・ニーズに応えるか、いかにして企業間の横串連携の合意形成を進めるか・・・・それが、本調査研究の一番の問題意識なのです。

プロジェクトメンバー

 主要メンバー

栗原 隆(代表)
中家啓太(事務局)

 アドバイザー

藤井克司(東京大学)
山田 淳(九州大学)
近藤義和(琉球大学)
新海征治(九州先端科学技術研究所ISIT)
松田直樹(産総研九州センター)

NEXT->前期活動報告