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事業内容

ISIT中長期R&D計画

ISIT中長期R&D計画(2010年7月21日策定)

【1】アティテュード(基本な姿勢)

研究開発活動と市民啓発活動の両輪により、「基本理念」の実現を目指します。

所員個々の取り組みは「理念実現のため」であって、手段を目的化することなく、常に公益性の観点から、必ずしも純需要指向に支配されない高い見識を持って遂行していきます。

特に、研究開発活動については、それぞれの研究分野において、ニーズ対応/シーズ創造、産業貢献/社会貢献、短期解決型/長期波及型など、自身の活動の位置づけを明確にして、目標実現の道のりに適切なマイルストーンを定め、日々課題の把握に注視して、その解決に正面から継続的に取り組みます。

【2】ポリシー(基本的な方針)

(1)基盤技術の展開と複合

マイコン・アーキテクチャ/インターコネクト技術、情報セキュリティ技術、実時間情報提供空間構成技術、ナノスケール自己組織化技術をコア技術とし、自発的にも他動的にも、これらを展開/複合する発想と意欲によって、ISITならではの先端科学技術による研究開発を行います。

(2)ICT分野でのニーズ対応

ICTそれぞれの専門分野においては、社会や産業界の抱える課題や動向を研究者の視点から広範かつ深く調査して、顕在/潜在を問わず未来を切り開く方向で、ニーズを把握・分析し、技術的解決と波及効果を透視して、研究開発に取り組みます。

(3)ナノテク分野でのシーズ創出

ナノテクは、あらゆる産業分野を革新する先端的基盤技術であることを深く認識して、手法としての自己組織化、成果としてのナノマシン機能、効果としての資源覇権の無効化を軸として、基礎と応用のレベルで世界のトップレベルの成果を出し続けます。

 【3】コンテキスト(問題意識のつながり)

※現状認識→抽出課題→取り組みキーワード(2010年当時の切り口)

(1)新産業:

脱・化石燃料、新興国との競争、資源の囲い込み

自動車および部品の革新(自動車産業界における九州の地域性)、
新たな産業モデルの創出、汎用資源への代替

市民・消費者が世代を継いで幸福をシェアできる視点

(2)社会システム:

情報インフラとしてのクラウド、交通インフラとしてのITS、
電力インフラとしてのスマートグリッド

それぞれのシステムにおける地域性の認識、複数システム融合時のICTの役割

グローバルな情報マネジメントの実りをローカルソリューションとして九州の地で
ビジネ化にするアイデア、トータルシステムとしての把握力・再構成力

(3)生活:

食の安全、水資源の確保、少子高齢化

栽培・養育環境の整備、加工食品の製造管理、純水製造、暮らし支援空間の整備

センサ技術、分離技術、コミュニケーション身体化技術、年長者の知の社会資本化

 【4】ロードマップ(思い描く道のりと一里塚)

研究室ごとに、ロードマップを作成(2010年7月あるいは2012年4月)して、それぞれの研究に取り組んでいます。詳しい中身は、研究室のサイトをご参照ください。

 【5】パートナーシップの場(どんな領域、どんなテーマで産官学連携?)

ISITがどんな連携研究をしていたのか? 2010年の例を図示してみます。

図は同心円になっていて、中心にISITを置かせていただいて、福岡市、福岡県、九州、果ては宇宙(残念ながら宇宙開発テーマは今もありません)までの空間を意識しています。

分野は、大きく、産業と社会と生活に分けていますが、やはり、財団のミッションである経済振興ということで産業に集中しています。加えて、年々徐々に、社会システムへの視線や個人の生活の質の向上への支援意欲も高まっています。

また、もう少し解像度を上げて見ていただければ、お気づきになられる通り、産業と社会、社会と生活、生活と産業の境界領域に研究テーマが集まってきています。これは、ISITの特徴である融合的視野によるものです。特定の分野にのみ専門化することなく広く社会のニーズに応えられるよう、これからも、皆様とともに活動していきたいと考えています。

ISIT R&Dマップ

 【6】研究顧問会議

 ISIT研究顧問会議は、研究所発足以来のアドバイザリーボードです。
 研究開発の推進・運営に関しては外部動向を鋭く分析した中長期的視点から、企画中/推進中の個々のプロジェクトに関してはその成果の形を見据えた的確かつタイムリーな視点から、有益なサゼッションを賜っています。
 ここではISITが九州先端研として再出発した2008年4月からの「顧問メンバー」と「最近の会議内容」をダイジェストします。

(1)ISIT研究顧問(2008年4月~/敬称略/○印は現メンバー)
  〇有川節夫
     長田正(2009年3月まで)
     三井信雄(2011年5月まで)
     杉野昇(2011年5月まで)
  〇池上徹彦
  〇池澤直樹(2010年2月より)
             ※池澤顧問には近著『技術を“見える化”すれば未来が見える』(2011年12月)があります。
                 特に第4~5章で提案されている「技術連関分析」 の手法は極めて斬新です。
                 また顧問就任の契機となったISIT定期交流会ご講演(「製造業とIT産業に先端性と競争力を与える塩
                 -ナノテク-」) の様子は、こちら(4ページ目のREPORT5)。
  〇齋藤ウィリアム浩幸(2011年5月より)
    ※齋藤顧問には近著『ザ・チーム 日本の一番大きな問題を解く』(2012年10月)があります。
       また、顧問就任の契機となったISIT訪問時の様子は、こちら(二つ目の記事)。

(2)最近の会議概要

第23回ISIT研究顧問会議(2009年3月2日) 三井、杉野、長田、池上ら、4顧問
 
 ナノテク研究室を新たに加えてスタートしたISITが、今後目指していく方向(右上にISIT発展の位置づけ)についてプレゼンテーションを行い、その後4名の研究顧問の方々にご意見をお伺いしました。研究顧問からのコメントは次のとおりです。/研究がどのような成果に結びついているのか、それらを明らかにしないまま次のテーマに移っていないか。/カーエレクトロニクスについて、Redefisなどの研究活動と、コンソーシアム活動の方向性の整理が大事。/福岡は棲み分けの進んだ都市で、そこに立地し、慣習に縛られず物を見ることのできるISITは産学官連携、人材育成に適している。/

第24回ISIT研究顧問会議(2010年2月22日) 三井、杉野、池上、池澤ら、4顧問

 この年は以下の3つの論点で議論を進めました。
①産学連携の成果の把握
②ナノテク研究(左上図)の軸足について
③カーエレクトロニクス・プロジェクトについて
 それぞれに対する顧問のコメントは次の通り。
①折角の研究が地元自治体に受け入れられなかった例もあると聞いている。その反省もすること。
②初期のスタンフォード大学も同じ。世界最先端を福岡市も望んでいるはず。地域への奉仕は別グループを作れば良い。また応用研究レベルでは、スポット的な成果ほど企業が受け取りにくいものはないことに留意すべき。
③国プロから始める段階的議論だとするならロードマップが必要。一度、所長と副所長で話して責任体制を明確にするべき。
 また、会議開催に先立って、三井顧問より、若手研究員に対して、以下のメッセージを賜りました。
① 自分の研究あるいは開発の「成果」を自覚しながら遂行すること。
② ①がしっかりしていれば、自分の仕事が「研究」か「開発」かは、自ら明らかになる。
③ 「開発」にはビジネスモデルが必須。
④ 「研究」には絞り込み(核)が必要。

※三井顧問のフィロソフィーにご興味のある方はこちらを。

第25回ISIT研究顧問会議(2011年5月9日)三井、杉野、池上、池澤、齋藤ら、5顧問

 ISITから、三名の研究員(柴村研究員、森本研究員、土屋研究員)による研究紹介や「ISITにおけるIT分野の今後の研究開発の方向性」(村上副所長)について発表を行い、その中で種々の意見交換がなされました。
 この年は東日本大震災後の開催であったことから、顧問の先生方からは、「大震災後の対応を踏まえた研究を」といったご意見や「研究のリターンを明確に」、「研究のユニーク性を自覚することが大事」、「10年あるいは20年先の社会インフラやエネルギー事情がどうなるのか、そこから逆算するという方法で研究計画を」などのアドバイスを頂きました。

※この会議のあと、2012年2月29日に杉野顧問がご逝去されました。右上のプレゼンが杉野先生からの最後のメッセージとなりました。先生の先見は、2005年の時点で早くも「エクスペリエンス・イノベーション」「SNS」「コンカレントモデル」「共創」などの新しいコンセプトを、いち早く我々にご提示頂いたことからも思い致すことができます。その一端はこちら

第26回ISIT研究顧問会議(2012年5月14日) 有川、池上、池澤、齋藤ら、4顧問

 会議はビジョン/ロードマップ推進状況/研究トピックスの三部構成で進めました。次長の栗原が、「ISIT、これからの3年間。その夢と物語と場と」と題して、現時点での研究所のビジョン、ロードマップ、(活動資源としての)ネットワークの再点検(右上ソーシャルグラフ)を行いました。
 次に、研究ロードマップを最新化した二つの研究室からの研究方針を説明し、最後に残りの三つの研究室の最新の研究成果と研究の方向性について発表し、それぞれ活発に意見交換されました。
 研究顧問からは、研究所の方向性について「九州の地理的な優位性を活かし、海外の人材や企業との係わり、特にアジアとの連携を」といった意見をもらい、個々の研究室の取り組みについても多くのアドバイスを受けました。

※右上の関係図は、ISITのアクティビティの大半が、たくさんのパートナーさま方のおかげで
成り立っていることを感謝とともに強調させていただくことに主旨があります。 
個々の関係の表現に不均衡や少なからぬ誤謬があれば、すべては次長の責任です。

平成25年度研究顧問会議・特別オープンセッション(2013年5月13日) 池上、池澤、齋藤ら、3顧問
 ISITでは、研究顧問の先生方をお招きし、平成25年度研究顧問会議及び特別オープンセッションを開催しました。
 最初にISIT次長の栗原より公益財団法人として新生ISITの概要説明がなされ、午前中の特別オープンセッションでは、ISITの研究顧問である斉藤ウイリアム浩幸氏、池澤直樹氏、池上徹彦氏の
3名から産学連携や科学技術を通じて地域の活性化に関係する方々に向けて、それぞれ独自の視点からのご講演をいただきました。午後からの研究顧問会議では、ISITから、5名の研究者による
研究発表を行い、その中で種々の意見交換がなされました。

【7】研究開発の使命感と目標意識

(1)はじめに

◆ 初めての中長期計画を策定(2010年7月)してから約1年。2011年の9月から11月に「2011-2012研究戦略プロセス話題提供」という形で、キーとなるであろう知識の共有を行いました。(後述→(2))
◆ その間(2010-2011)に、宮城沖の巨大地震と大津波(のちに東日本大震災と名付けられる)、さらに東電福島原発事故が起こりました(2011.3.11.)。中長期計画(2010-)の中で時代的背景に用意した「取り巻く環境の時代変遷の図」(2010年7月)も、震災を経た2012年3月には、当然のことながら大きく塗り替えざるをえませんでした。象徴的なのは、左上の「3・11の楔」とその左右に示した時代感覚の対照、赤文字で追加した部分、表中右上方の「世界システムと資源覇権」が「世界不況と原発事故」によって足踏みあるいは前倒しとならざるをえない状況。

◆ このような状況を踏まえて、ISITメンバーの意識レベル/モティベーションの進化方向は、左下の図で示されるように(まだまだシーズオリエンテッドな傾向は否めないものの)「地域・市民生活への視野の深化」に根差した科学技術による社会貢献へと向かいつつあるように思います。
◆ 可視化の難しい「社会貢献・研究成果の社会還元」(右下図)ではありますが、それらをあらかじめプランに織り込めるよう意識化を進めています。

(2)知識共有2011-2012

◆ 先に述べた「2011-2012研究戦略プロセス」に関わる知識共有は、①地域の中のITコンピタンス/②ものづくり・サービスの構造(オープン・インテグラル)/③地域の課題診断と世界の境界条件/④組織の活力としての資金調達/を話題として、4回シリーズで行いました。
◆ 下図は、それら4回を一つにまとめて示したものです。シリーズ間の文脈は次のように整理できるかもしれません。①→②:スケールアウト戦略、②→③:グローバリゼーションの次のステージ(課題解決産業の予感)、③→④:課題解決の組織と社会からの支持、④→①:社会変革と課題解決産業の構造。

◆ 上図は要約です。さらなるご興味、あるいは、ご不明な点等ございましたら、isit-kikaku@isit.or.jp まで、お問い合わせください。

(8)イノベーションのスタイル(ニーズとシーズの座標から)

 次に掲げる図は、東京大学産学連携本部の価値創造型産学連携共同研究スキーム(Proprius21)の産学連携創出マトリクスを参考にして作成したイノベーションスタイルの鳥瞰図です。

 各象限の特徴を総覧してみましょう。

・第三象限:
ニーズもシーズも顕在化したマッチング領域です。これまで地域の産学連携活動の主軸となってきた部分と理解することができます。

・第四象限:
LSI開発製造に代表される先進的かつ大規模な「ものづくり系」のスキームです。目標実現に対してロードマップを策定し、お金と人を集中的に投入して開発します。大企業や国の威信を賭けた大型プロジェクトのスタイルかと思います。

・第二象限:
アプリケーション開発などIT系ビジネスの開発が代表的です。ITなど既存の基盤技術を活用して新たな商品(つまり新市場)を作り出していく戦略が活きる領域です。

・第一象限:
もっともチャレンジングな研究開発領域です。先進の技術で新市場を開拓していく領域です。具体的にはナノテクや基礎的バイオテクノロジーが対応しそうです。

 次の図は、上記を白地図として、2009年時点の当研究所の主要な研究テーマ(黄色い四角でポジショニングして示しています)を配置し、さらに、これらの研究開発を今後どのように進展させていけば、より価値の高い(市場開拓性、産業・経済の質を高める)成果につながるだろうかという議論のために、かなり大胆にベクトル化して示したものです。

 これらの図面は、毎年度交流している京都高度技術研究所ASTEMとの意見交換の際に使用したものです。もう三年前のものですが、それぞれ大筋では予見に沿って進んでいるのではないかと思います。
 しかし、本当の論点はこの先にあります。

 ここで注目してみようとしているのは、先の(7-1)の後半で述べた「今後のISITR&Dの方向性」、すなわち、「地域・市民生活への視野の深化に根差した科学技術による社会貢献」についてです。

 これまでは、個々の企業が発展していくことによって社会全体が豊かになるという大前提がありました。しかし、今や商品やサービスは数多くラインナップされているのに買われないという「もの余り」の状態が産業レベルで起こっている一方、地域・市民生活においては解決されないまま放置されている「課題が山積み」の状態になっています。

 もちろん、これらすべての課題が産業によって解決できるものばかりではありませんが、少なくとも、これから企業が活動の場とすべき「潜在市場」を含む母集合であることは間違いありません。

 これら潜在市場は、どこにあるのでしょう。いうまでもなく、第一象限と第二象限です。ただし、ここでいう「潜在するニーズ」とは、企業のマーケティングによってセグメント的にあぶりだされる従来型の市場ニーズばかりでなく、本当に地域や市民がその解決を願っている「問題意識」を多分に含んだ姿でなければ、もはや顧客の購買意欲を強く広く喚起することはできなくなっていくのではないかと思います。これは、既存の企業にとって極めて難しい問題だろうと思います。

 ただし、「食の安全」「情報セキュリティ」「エネルギー的自立」といったニーズは、既存の企業マインドでも十分イマジネーションの届く「社会的課題」として顕在し始めていることを考えれば、いちはやく、そうした社会的課題を如何なる技術で解決すべきか、さらに、真にそれらを解決するには分野の異なる複数の技術を如何に融合させる必要があるかを考えて行かなければならないでしょう。
 もしも、そのようなトレンドが正しいとしたら、それこそ、社会と産業の間に位置しているISITの活動の重要さが明らかになってくるでしょうし、そこにこそ、新たな時代を築く「産学官民」連携の可能性が眠っているのではないでしょうか。